2019.03.01
株式会社ファームノート プロダクトマネジメントチーム
獣医師 平 勇人
酪農業界では、関係者の努力によって過去20年以上にわたって乳牛の泌乳生産能力はほぼ一貫して向上し、飼養形態の変化や大規模化とともに生産性向上を牽引してきた。その一方で、高泌乳化は繁殖成績の悪化だけでなく、周産期病をはじめとする疾病のリスクを高め、生産者の経済的・労働的な負担を増大させる一因になっている。
日本では、月に約5%の乳用牛が獣医師による診療を受けている。これら疾病が生産性に与える影響度はトランジション・カウ・インデックス(TCI)の研究から推計できる(図1)。これによると、第四胃変位を発症した牛ではその泌乳期の305日乳量が3000ポンド(約1360kg)低下するとされている。周産期の牛は乳熱やケトーシスから疾病の連鎖が始まり、最終的な病態として第四胃変位を発症し、手術によって治癒するというのは現場でよく経験することである。しかし、手術により治癒したとしても第四胃変位を発症した牛はすでに大きく生産性を損なっているということである。早期発見と早期治療によって疾病の連鎖を早い段階で断ち切ることが生産性を発揮するために重要なことがわかる。
牛は変化を嫌う動物であり、毎日同じ群れの仲間、同じ飼料、同じ時間に搾乳されるのを好み日々の行動パターンが大きく変化することはない。その中で、生産者は経験的に疾病による牛の行動変化の重要性を把握し、日々の観察のなかで”普段と違った様子”の牛がいないか常に気を配っている。そしてTCIによる分析によって、生産性に影響する5大要素の一つとして観察方法の重要性が示されている。さらに、牛の観察方法の中でも、日乳量や体温の変化よりも牛の行動変化を捉える方が生産性の向上につながることがわかっている。その一方で、目視による疾病兆候の発見にはさまざまな課題がある。
牛の行動変化の評価方法は経験に依存するため個人差が大きく、また人手不足から観察に十分な時間と人手をあてることができず、多頭化する中で”牛の状態を注意深く観察し、疾病兆候を早期に発見する”ことが容易ではなくなっている。そのような問題を解決するために、われわれは牛の頸部に装着する加速度センサーによって牛の疾病兆候を検知し、生産者に通知するという仕組みの開発(注1)・提供を行なっている。
(注1)本機能開発に伴う牛の疾病兆候予測研究の一部に関しては、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」の支援を受けて行った。
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