【全3回】和牛における発情発見の重要性と向上のための取り組み②

<連載第2回:和牛における発情検知時間と発情発見率向上のための現実的な施策>

株式会社ファームノート プロダクトマネジメントチーム
獣医師 平 勇人

和牛繁殖経営では、その収入源を子牛の販売に大きく依存しています。そして子牛を生産するには、その母牛を妊娠させる必要があり、発情を発見して種付けをするという和牛繁殖生産者にとって最も基本かつ重要な作業を徹底できるかにかかっています。

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以下の図.1は牛用センサーデバイス「Farmnote Color」が検知をした、1日の時間帯の中で発情が起きている分布を示しています。この図からもわかるように黒毛和種の発情は24時間の中でも比較的満遍なく起こっているものの、午前3時頃に発情行動を示す割合がピークになるほか、発情行動の34%が22時-6時の時間帯に起きていることがわかっています。当然、この時間帯の発情は多くが見逃されていると推察されます。

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(図.1:和牛における発情検知時間)

すなわち、観察以外によって生産者の発情観察を補完して発情発見率を向上させる取り組みが必要になることは必然だと考えられます。

発情発見率向上のための現実的な施策

発情発見率を高めるために、現実的にはどのような取り組みが可能なのでしょうか?
一つは定時授精プログラムの活用などにより、一定の分娩後日数で確実に種付けをしていく方法があります。もう一つは、生産者による発情発見を補完するシステムを導入することです。

定時授精プログラムを全頭に活用して分娩後初回授精のタイミングをコントロールする方法は、酪農において採用されている生産者は増えつつありますが、薬剤の接種に関わる作業負担が大きいことなどから和牛繁殖においては、まだ長期不受胎牛への適応に限定的であると考えられます。

一方、発情発見のためのシステムは長く現場で活用されてきたテールペイントに加え、歩数計や活動量計を活用したICT(情報通信技術)システムが普及してきています。特に後者のICTシステムでは、発情に伴う活動の増加をその開始と終了時間まで推察することが可能であり、発情発見率だけでなく受胎率の向上にも寄与することができる特徴を持っています。

これらのシステムは人間が不得意とする分娩後の初回発情発見や深夜帯の発情発見を大きく補ってくれる特徴も持ち合わせます。発情は約21日の周期性があるため、一度でも発情を発見している個体では次の発情を予測することが可能となり発情発見が容易になります。その一方で、分娩後にまだ初回発情を発見できておらず、発情の周期性を把握できていない牛では、いつ来るかわからない発情発見の難易度が一気に高まります。

発情発見を補完するシステムは24時間365日、牛の行動変化を見守っているため、人間が不得意とする分娩後初回発情も安定して発見することができるほか、前述の通り一定数起こっている深夜帯の発情発見も可能とします。

<連載第3回:畜産現場でのICT活用事例>【終】

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