【全3回】和牛における発情発見の重要性と向上のための取り組み【終】

<連載第3回:畜産現場でのICT活用事例>【終】

株式会社ファームノート プロダクトマネジメントチーム
獣医師 平 勇人

和牛繁殖経営では、その収入源を子牛の販売に大きく依存しています。そして子牛を生産するには、その母牛を妊娠させる必要があり、発情を発見して種付けをするという和牛繁殖生産者にとって最も基本かつ重要な作業を徹底できるかにかかっています。

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畜産現場でのICT活用事例

熊本県芦北町にある川口畜産は総飼養頭数180頭、代表と従業員の方との2名で肉牛繁殖を営んでいます。(写真)2015年4月から雌牛を牧場に導入するにあたり、市場での販売を目的に初妊牛の育成に取り組んでいます。

繁殖成績の改善や発情兆候の見逃し削減を期待し、2017年11月に牛用センサーデバイス「Farmnote Color」を導入。同牧場ではスタッフの目が行き届かない夜間帯に全体の約6~7割を占める発情が起きていることがわかりました。

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(写真:お話をうかがった川口畜産の川口誠二代表)

導入による効果として、種付け回数の削減があります。導入後の現在は種付け回数が以前よりも減り、1~2回くらいで受胎するようになりました。発情兆候や授精適期がわかることで、効率的な種付けが実現できており、結果として3か月に1回のペースでコンスタントに出荷ができています。導入以前は発情発見に対して精神的に追い詰められることもあったといい、心理的な余裕も生まれたといえます。

Farmnote Colorを導入してからはデータを基にターゲットを絞って個体を見ることができるので、牛群全体を見回ることがなくなりました。その他、活動量や休息量のデータ数値の変化を見ることで妊娠鑑定の前におおよそ判断ができたり、周期に合わない兆候のある牛は何かの異常を疑うことができるといいます。

まとめ

発情を発見して種付けをするというのは、和牛繁殖経営にとっては最も基本的な取り組みであると同時に、将来の収益を生み出す最も重要な取り組みでもあります。しかし、日常の牛の観察の重要性が揺らぐことはありませんが、人力だけでは目標の分娩間隔を達成することは容易ではありません。また、普段は意識されることが少ない発情の見逃しによる経済的な機会損失は非常に大きく、発情発見率や授精時期の僅かな改善が大きな利益として返ってきます。そういった点からも、発情発見から授精の一連業務において定時授精プログラムやICTを活用した発情検知機器を導入することは、見逃し削減と精度向上に向けて効果的な手段となります。

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